産後にひざが痛くなる原因とひざの痛みを改善するストレッチ
立ち上がる時にひざのお皿に痛みが走ったり、階段の上り下りでひざが痛みます。子どもの抱っこが辛くて……。
産後は運動不足による筋力の低下や、妊娠中の体重の増加などが原因で、膝に負担がかかりやすくなります。
病院に行くほど耐えられない痛みではないけれど、いつもひざが痛いと悩むママさんは少なくありません。
この記事では、産後にひざが痛くなる原因や、ひざの痛みを改善する効果的なストレッチについて説明します。
1.膝関節の構造
膝関節は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の末端が接合する部分です。これらの2つの骨の上に大腿四頭筋(前ももの筋肉)と膝蓋靱帯に支えられた膝蓋骨(ひざのお皿)が組み合わさってできています。
大腿骨と脛骨の間には、半月板や関節軟骨があります。この半月板や関節軟骨は、骨の表面を守り、衝撃を和らげるクッションのような役割があります。
これらの組織は、年齢を重ねることで徐々にすり減ると、すり減った軟骨の破片が関節の内側を覆っている「滑膜」を刺激します。その結果、炎症が起こり、痛みが生じることになります。
2.産後にひざが痛くなる原因は?
産後にひざの痛みに悩まされる女性は多くいます。
ある調査によれば、約5人に1人が産後に膝関節の疼痛を感じていた(※1)と回答しています。
ここでは、産後にひざが痛くなる原因を5つに分けて解説します。
2-1.運動不足
妊娠中や産後の安静により、体を動かす機会が減ると、ひざの痛みを感じやすくなります。
膝関節を支える骨や軟骨、筋肉や靱帯は、日頃から体を動かし適度な刺激を与えていないと少しずつ衰えていきます。
特に前ももの筋肉(大腿四頭筋)の筋力低下がひざの痛みと相関する(※2)と言われています。
2-2.妊娠中の体重増加
ひざの関節は体重を支える主要な関節です。妊娠中に増えた体重が産後も戻らない場合、ひざにかかる負担が大きくなります。
例えば、歩行時は体重の約3倍、階段の上り下りでは同約7倍、前かがみの姿勢や重い荷物の持ち運びが加われば同約10倍の負担が膝にかかります。
体重が1キロ増えると、膝関節への負担は歩行時に3キロ増え、階段の上り下りで7キロ、前かがみや重い荷物の持ち運びが加わると約10キロそれぞれ増える計算になります(※3)
産後なかなか妊娠前の体重に戻らない方は、1ヶ月に1キロなど無理のない範囲で減量するだけでも、ひざの痛みの改善が期待できるでしょう。
2-3.育児による無理な姿勢や動作
産後は赤ちゃんのおむつ替えや授乳など、お世話のために立ったり座ったりする動作が増え、膝関節に負担がかかります。
特に、妊娠中や産褥期に安静にしていた状態から、急に活動量が増えるとひざを痛める原因となります。
また、赤ちゃんを抱っこして、日常動作を行うことが多くなります。新生児の頃は3〜4キロほどだった赤ちゃんの体重は、生後3ヶ月頃になると約2倍に増えます。
その重みは膝関節への負荷を増加させ、痛みの原因となることもあります。
2-4.妊娠による姿勢の変化
妊娠によりお腹が大きくなると、身体の重心が前方かつ下方に移動します。
それに伴い、身体のバランスを保つため、腰椎と頚椎の前弯が強まる影響で、ひざを通常の位置よりも伸ばしすぎた状態になると言われています(※4)。
また妊娠後期では、分娩に備えて、恥骨結合や仙腸関節などの骨盤結合部の靱帯が緩み、股関節が外旋(太ももの骨が外側に開いた状態)しやすくなります。
ガニ股が続くと、内ももの筋力が低下し、足の外側に体重がかかりやすくなります。
このように妊娠中についた姿勢や重心のクセが産後も継続すると、膝関節への負荷が増加し、ひざの痛みの原因につながります。
2-5.授乳によるカルシウム不足
産後のホルモンバランスの変化や、授乳によるカルシウム不足も、ひざなどの関節痛を引き起こす要因となります。
産後はエストロゲンの分泌量が急激に減ります。エストロゲンには、骨からカルシウムが溶け出すのを防ぎ、骨の形成を促す作用があります。そのため、エストロゲンの分泌が減ると骨密度が減少しやすくなります。
また、妊娠・授乳期間中は母体から胎児へカルシウムを供給するため、母体のカルシウムが一時的に失われます。
妊娠や授乳により低下した骨密度は、授乳期間に応じて産後半年から4年で妊娠初期値まで回復する(※5)というデータがある一方で、
日本人女性のカルシウム摂取量は平均的に少なく、十分に摂取できていない人が多い(※6)という現状を踏まえると、普段から栄養バランスの摂れた食生活を送ることも大切ですね。
3.産後のひざの痛みを改善するストレッチ
日本整形外科学会のホームページでは、ひざの痛みを予防する方法として「太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)を鍛える」ことが推奨されています。
- ヨガマットに仰向けに寝て、右ひざをまっすぐ伸ばす。左足のひざは直角以上に曲げて立てる。両手は身体の左右に置く。
- 右ひざをまっすぐ伸ばしたまま、床から10センチ程度までゆっくり上げ、5秒間キープ。右足をゆっくり床へおろし、2〜3秒休む。
- 1と2の流れを10回繰り返し、左足も同様に行う。
慣れてきたら5秒キープした後、床に足を完全に下ろさずにギリギリのところでキープすると、負荷が高まります。
ひざを支える太ももの前の筋肉や、腰と太ももをつなぐ筋肉(腸腰筋)、腹筋などの筋肉が鍛えられ、ひざの痛みの予防につながります。
4.産後のひざの痛みを改善する「ウォーキングのポイント」
ウォーキングなどの有酸素運動を行うと、血流が改善され、ひざに酸素や栄養が供給されます。
また、ひざの炎症を引き起こす物質を抑える作用もあり、ひざの痛みを改善する効果が期待できます。
とはいえ、たくさん歩けばいいというわけではありません。
ひざの痛みがある人は、軟骨のすり減りを防ぐため、1日の歩数を5000〜6000歩未満に抑えることが推奨されています(※7)
下り坂や階段はひざへの負担が大きいため、できるだけ平地を選ぶのがおすすめです。歩いていてひざが痛くなったら、我慢をせず休み、辛くない範囲で歩くようにしましょう。
産後の女性は外側重心になりやすいです。
歩き方のポイントは、かかとで着地をした後、つま先が地面につく時に「親指で地面をしっかり踏む」のを意識するとバランスが安定し、ひざへの負担も軽くなります。
5.まとめ
産後の膝の痛みは多くの女性が経験する問題です。産後は、運動不足によって筋力が低下しやすく、ホルモンの影響で関節の不安定になりやすいです。結果として、膝に負担がかかり、痛みを引き起こすことがあります。
適度な運動やストレッチで膝の安定性を高めること、膝に負担の少ない動作や姿勢を心がけることで、膝への負担を経験することができるでしょう。
膝の痛みが続く場合は、専門医の診察を受けることが大切です。適切なケアと予防策を取り入れながら、産後の生活を快適に過ごしてくださいね。
主な参考文献:
- ※1:永見 倫子,産後女性の身体症状 ─育児中の女性に対するアンケート調査より─,The Journal of Japan Academy of Health Sciences,p.16~21
- ※2:変形性膝関節症診療ガイドライン,pp27
- ※3:黒澤尚『ひざ痛 変形性膝関節痛 ひざの名医15人が教える 最高の治し方大全』(文響社)pp34-35
- ※4:森野佐芳,正常妊娠における姿勢・歩行の変化,日本リハビリテーション医学会誌,2023
- ※5:米山 京子,池田 順子,妊娠および授乳後の骨密度の回復に関する縦断研究,日本公衆衛生雑誌,平成14年6月15日
- ※6:妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活の指針(厚生労働省)
- ※7:黒澤尚『ひざ痛 変形性膝関節症 自力でよくなる!ひざの名医が教える1分体操大全』(文響社)pp56-62
産後ヨガ講師。公民館や児童館での子連れヨガレッスン開催や、産後の心身のケアについて執筆を通して、ママのサポートに励んでいる。プライベートでは2人の男の子の子育てに奮闘中。