産後の腹直筋離開って何?チェックの方法と効果的なセルフケア
出産してからお腹に力が入りにくくなった。腰痛や姿勢の悪さも気になる
今回は、腹直筋離開についてお話しします。
腹直筋離開とは、妊娠中に腹部が大きくなるにつれて、腹直筋が左右に引き離されることで起こる現象のことです。
あまり知られていませんが、妊娠後期から産後にかけて多くの女性が経験します。
この記事では、腹直筋離開の症状や原因、セルフチェックの方法と適切な筋トレの方法についてお伝えします。
1.腹直筋はどこにあるの?どんな筋肉?
腹直筋はお腹の真ん中にある平たく長い筋肉です。
いわゆる「シックスパック」と呼ばれる部分の筋肉ですね。
腹直筋は胸骨のすぐ下から恥骨にかけて伸びており、姿勢の保持やお腹にある内臓を守る役割を担っています。
日常生活では、仰向けから起き上がる、座っている状態から立ち上がるなどの動作で働く筋肉です。
2.腹直筋離開とはどんな状態?
腹直筋には中央を縦に走る線「白線」という繊維組織があります。
白線はコラーゲンとエラスチンで構成されています。丈夫でゴムのような弾力性があり、腹直筋の両側を結びつけ、体幹を安定させる役割があります。
妊娠によって腹部が大きくなると、この白線が薄くなり、左右に引き裂かれるとともに、白線の機能障害を起こすことがあります。これを「腹直筋離開」といいます。
妊娠後期では約66%の女性に腹直筋離開が見られるとされています(※1)。
妊娠によって離開してしまうと、白線は弾力性を失い、弱くなります。結果として、体幹の不安定さを補うために腰背部筋への負荷が増し、背中や腰の痛みにつながります。
妊娠や出産による腹直筋離開は、欧米では広く認知され、治療対象になる一方で、残念ながら日本ではあまり着目されていないのが現状です。
3.産後の腹直筋離開は自然治癒する?
妊娠中に離開した白線は、通常産後8週間以内に自然にもとに戻ります。
一方で、腹直筋離開を患う人の約40%は、産後6ヶ月に至っても症状が改善しないという報告(※2)もあり、個人差が大きいようです。
帝王切開だと腹直筋離開になりやすい?
日本における帝王切開術の割合は、令和2年の時点で全体で21.6%(※3)で、その割合は年々増加しています。
帝王切開では通常、下腹部の恥骨付近を10〜15センチ程度、横切開します。(医師の判断によっては縦に切開する場合もある)
お腹を切るとなると、腹筋群の低下につながるのでは?と心配になりますよね。私もヨガのクラスで「帝王切開をしたせいか、腹筋に力が入りにくい」とお話しされるママさんと出会ったことがあります。
海外の研究では、帝王切開と経膣分娩の間で、腹直筋間距離に有意な差はないとされています(※4)
4.腹直筋離開のチェック方法や主な自覚症状
腹直筋離開のセルフチェックの方法
- 仰向けに寝て膝を直角に曲げる。
- おへそを覗き込むようにして頭と肩を床から浮かせる
- 「おへそから4センチ上」「おへそ」「おへそから4センチ下」それぞれの箇所で、指を縦に当てて指が何本分入るかをチェックする
- 指2本分、指が入る場合は、腹直筋離開の可能性があります。
主な自覚症状は、
- 腹部に力が入らない
- 背部に痛みを感じる
- 起き上がりが困難である
などが挙げられますが、自覚症状は基本的に少ないという報告もあります(※5)。
5.腹直筋離開を患う人がやってはいけないこと(禁忌)
ここでは、腹直筋離開を患う人がやってはいけないことを運動面、日常生活にわけてお伝えします。
5-1.負荷の強い腹筋運動
産後の腹筋運動は、基本的に禁忌と考えられています。
産後は腹直筋に限らず、腹斜筋・腹横筋・骨盤底筋といった体幹部の筋肉が弱った状態でうまく機能しない人が多いです。
そうした中で、腹筋運動を行うと過度の腹圧が骨盤底筋にかかり、産後の回復が遅れてしまう可能性があるためです。
いわゆる「シットアップ」と呼ばれる、腰から上を床から離して起き上がる動作は、産後の女性には負荷が強くおすすめしません。
5-2.ドローイン
あおむけの姿勢で腹式呼吸をしながら息を吐く時にお腹を腰の方へ凹ませる運動をドローインと言いますが、海外の研究によると、産後のドローインは腹直筋離開を悪化させる可能性があるとされています。
研究では、へその中心から2センチ上と2センチ下の2箇所で、腹部の正中線に沿って超音波スキャナーを配置し、安静時・腹筋運動(クランチ)・お腹の引き込み(ドローイン)によって、腹直筋間距離がどのように変化するのかを調べました。
その結果、安静時・腹筋運動に比べて、お腹の引き込み(ドローイン)の腹直筋間距離が最大になることが明らかになりました(※6)。
3-1.の腹筋運動も同様ですが、お腹を強く凹ませる動作は、離開した白線の幅をさらに広げる恐れがあるため、避けたほうがいいでしょう。
5-3.プランク
体幹トレーニングとして定番のプランクポーズも、腹筋が弱いと正しいフォームが保てず、腰や手首に負担がかかりやすいです。
産後、筋力が落ちている中でYouTubeの筋トレ動画などを見ながら自己流で行う場合は、注意が必要です。
5-4.日常生活で気をつけること
産褥期(出産後の体がもとに戻るまでの期間、産後6〜8週間)は、なるべく安静に過ごすことが大切です。
白線を構成するコラーゲンやエラスチンは食事で摂取することができますので、豚や魚などのタンパク質を積極的に取り入れた栄養のある食事を心がけることも、体の回復を助けます。
またトイレでいきんだり、重いものをもったりすると腹筋に負荷がかかるため、なるべく避けます。
普段から便秘にならないように、水分や野菜・果物を多めに摂取しましょう。
上の子を抱っこする時は、膝の上などに乗せる・パパなど周りの大人に代わってもらうなどして、無理をしないことが大切です。
6.腹直筋離開の治し方!効果的な筋トレはこの3つ〜
腹直筋離開の治し方として効果的な筋トレ方法を3つご紹介します。
6-1.ヘッドリフト
- あおむけに寝て、膝を曲げる。腕は自然に体の横へ下ろす。
- ゆっくり息を吸って、吐く時にあごを胸に近づけるようにして頭を持ち上げる
- ゆっくり下ろす(1セット10回)
6-2.ツイストカールアップ
- あおむけに寝て、膝を曲げる。左腕を体の横へ下ろし、もう右の手を頭の後ろへ回す。
- ゆっくり息を吸って、吐く時に頭をあげて右の肩甲骨が床から離れるまで、背中の上部を斜めに曲げる
- ゆっくり下ろす(左右それぞれ1セット10回ずつ)
6-3.カールアップ
- あおむけに寝て、膝を曲げる。腕を胸の前でクロスさせる。
- ゆっくり息を吸って、吐く時に頭をあげて左右の肩甲骨が床から離れるまで背中の上部を曲げる。
- ゆっくり下ろす(1セット10回)
上記のエクササイズのうち、特に①と②は、へその上と下の両方の腹直筋間距離を大幅に減少したという報告もあります(※7)。
筋トレを行うときは反動をつけずにゆっくり行うことが大切です。
床から頭を浮かせる時に、首の横の筋肉が過度に使われている感じがしてつらいです
呼吸を上手に使うと腹筋に効かせることができますよ。
息を吐く時にお腹の筋肉を収縮させながら上体を持ち上げて、吸う時に上体を戻すようにします。ゆっくりとした動作で反動をつけずに行いましょう。
また、筋トレ中はお腹に手を当てて、腹筋がしっかり働いていることを確認しながら行うのもおすすめです。
7.まとめ
産後の腹直筋離開は、多くの女性が経験する問題ですが、適切なケアを行うことで回復が期待できます。
まずはセルフチェックを行い、必要であれば専門家の診断を受けることが大切です。
記事の中でご紹介した筋トレ方法を継続しながら、体の状態に合わせて無理なくケアを続けましょう。
主な参考文献
- ※1:Boissonnault JS, Blaschak MJ: Incidence of diastasis recti abdominis during the childbearing year. Phys Ther 1988; 68: 1082─1086.
- ※2:Diastasis Recti(Cleverland Clinic)
- ※3:周産期医療の体制構築に係る指針(厚生労働省)
- ※4:M.F. Sancho,Abdominal exercises affect inter-rectus distance in postpartum women: a two-dimensional ultrasound study,Science Direct
- ※5:平元奈津子,成人期にみられる男女の身体変化と症状,理学療法学 第 41 巻第 8 号 511 ~ 515pp
- ※6:Patrícia Mota,Test-Retest and Intrarater Reliability of 2-Dimensional Ultrasound Measurements of Distance Between Rectus Abdominis in Women,jospt
- ※7:Sandra B Gluppe, Marie Ellström Engh, Kari Bø, Immediate Effect of Abdominal and Pelvic Floor Muscle Exercises on Interrecti Distance in Women With Diastasis Recti Abdominis Who Were Parous, Physical Therapy, Volume 100, Issue 8, August 2020, Pages 1372–1383
産後ヨガ講師。公民館や児童館での子連れヨガレッスン開催や、産後の心身のケアについて執筆を通して、ママのサポートに励んでいる。プライベートでは2人の男の子の子育てに奮闘中。